アフターダーク
家内が図書館で借りてきてくれたので(←奇跡的?)早速読んでみました。
以下、ちょっとネタバレ気味。ご注意ください。
読者には『カメラ』というとても無機質で極限まで第3者的な視点が与えられ、“正統的なタイムトラベラー”のように、見ているものに関っていくことが出来ない、とされています。そして、それぞれの場面が時系列で並べられ、映画のカット割のように場面転換がされていきます。
『カメラ』という視点については、その視点を確立させるために、序盤でかなりの量の文字数がさかれているので、この作品にとって、読者をそういう視点に置くことがとても重要なものであったことがわかります。これまでの村上作品では、『僕』という1人称で語られることが多かったことを考えると、とても大きな変化といえます。
ラブホテルで少女に暴行をした男が自分の会社へもどって仕事をしている場面で、そこに流れるとても緊張感のある空気感をどこかで感じたことがあるような気がして、よく考えてみると、同じ村上でも村上龍さんのバイオレンスの描写を読んだときに感じたものに近いことに思い当たりました。
この作品に流れる音は、ファミレスやコンビニに流れるBGMと登場人物の会話を除けばほとんどありません。それ以外は遠くで聞こえる車のクラクションや、通り過ぎる車やバイクのエンジンやタイヤの音等の無機質なものです。終始一貫して場面は都会の深夜に限定されているので当然と言えるかもしれません。そして、描写は村上流の淡々と静かなものです。それなのに、上の場面でバイオレンスの具体的な描写なしに極限的な緊張感を感じさせられたのは、それがこの作品のテーマだったからかもしれません。
中盤で高橋の言葉で語られる、『平和で穏やかな世界と暴力的で狂気的な世界との間には薄い壁一枚しかない』(←うろ覚え)というフレーズこそが、アンダーグラウンド以降、作者が常に意識しているテーマなのかもしれません。
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