2005/07/08

エイジング

 最近女性達のあいだでは「アンチエイジング」という言葉がもてはやされているようです。

 「エイジング」とは「加齢」を意味しますので、「アンチエイジング」は「加齢を抑え込む」という意味になります。加齢とともに衰える肌のはりや、増えるくすみやたるみを抑えていかに若々しく保つか、というのがテーマのようです。

 女性のそういった心理はよく理解できるのですが、人間が自然に逆らえないのと同じように、自然な「老い」にもやはり逆らうことはできません。多少遅らせることができるだけです。
 これを「より好ましく老いる」ためにはどうしたらよいか、と考えることで、とてもポジティブに転換できます。
 世の中にはとても素敵に歳を重ねている人たちがたくさんいます。そういう人たちはまず、精神がとても若々しくてポジティブです。そして美容や健康については普通の人たちよりも無頓着だったりします。
 昔どこかで読んだ話しですが、体に悪いとされることは一切しないように努めるグループと、酒であろうがタバコであろうが、好きなことは一切制限しないで過ごすグループを作って、それぞれを長い期間リサーチした結果、後者のほうが長生きしたそうです。このリサーチをした人は予想していなかった結果に驚いてしまい長い間発表できなかったそうです。
 「笑う門には福来る」といいますが、重要なのは心の持ちようということです。

 私が携わる建築の世界でも「メンテナンスフリー」を合言葉に「アンチエイジング」な材料が持てはやされています。老朽化したり汚れたりしにくい材料という意味なのですが、このために世の中に無機質で無味乾燥な印象の建物があふれてきました。ハウスメーカーの建てる住宅がその筆頭です。
 安くて良いものを求めるのはいいのですが、誰かの何かと一緒であれば安心する中流意識や極端にメンテナンスを嫌う意識が、この無味乾燥路線に勢いをつけています。
 
 家を建てるということは一世一代の大きな買い物であり、愛する家族の毎日のねぐらを作ることです。そして出来上がった家は愛着を持てるものであって欲しいものです。そのためには、ただ与えられたものを受け入れるのではなく、建主自身が家のことをもっと勉強し、材料や間取りにこだわるなど、じっくりと時間をかけて設計するべきです。大事なのは竣工して引渡しを受けた時点で完成ではなくて、住まいながら育てていくという感覚です。メンテナンスフリーもいいですが、メンテナンスや模様替えに積極的にかかわっていくことで家に対する愛着も湧きます。建設当初にかかる費用も抑えることもできます。
 愛着を持って家に接するためには、古くなって味わいの増す材料を使うことが重要です。ビニールクロス張りの壁やユニットバスは薄汚れてくるだけで味わいは増しません。ペンキ塗りの壁は何度も塗り重ねることで、木の床や手摺は手垢がついたり磨き上げたりすることで愛着が深くなり味わいを増していきます。これが「エイジング」です。

 そして愛情を持って育て上げられ、うまく「エイジング」した家は、古くなってもちゃんと売れます。不動産価値が上がったりもします。

 そんな家がたくさん建っている社会になるといいなぁと思います。

[Misc.]
 


    Links to this post

    リンクを作成