2006/10/11

ありがとう

いまさらではありますが。

私は、私のために泣いてくれた人たちのことを一生忘れない。

いなくなっちゃうなんて嫌だ、といってワンワンと泣いてくれた人。

すまんかった、と言いながら、タクシーの中でしくしくと泣いてくれた人。

何もすまないことなんてないのに。

 

私は、私のために一晩中お酒に付き合ってくれた人のことを忘れない。

そいつと一杯いろんなことを話した。どんなことを話したかはあんまり覚えてないけど。

 

私は、私のためにずっと無言でいてくれた人のことを忘れない。

最後の日は、そいつの家に泊めてもらった。盛り場からそいつの家まで、ふたりでてくてくと歩いた。その間、なにかしゃべった記憶がない。そいつの家に着くと、布団のある場所を教えてくれたり、明朝の予定を確認してくれたりはしけど、それ以外は何も聞かなかった。

そいつはずっと無表情だった。笑いもしなければ怒りもしない。表情のない表情をしていた、と言ったほうが正確かもしれない。

翌朝、トーストとコーヒーの簡単な朝食を済ますと、そいつは出勤時間を少し早めて、空港へ向かうバスの乗り場まで付き合ってくれた。

バスが発車するとき、そいつは表情のない表情のまんま、右の手のひらをこちらへ向けるようにして、軽く手を上げた。

そいつのその姿を、ずっとずっと忘れない。

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