ありがとう
いまさらではありますが。
私は、私のために泣いてくれた人たちのことを一生忘れない。
いなくなっちゃうなんて嫌だ、といってワンワンと泣いてくれた人。
すまんかった、と言いながら、タクシーの中でしくしくと泣いてくれた人。
何もすまないことなんてないのに。
私は、私のために一晩中お酒に付き合ってくれた人のことを忘れない。
そいつと一杯いろんなことを話した。どんなことを話したかはあんまり覚えてないけど。
私は、私のためにずっと無言でいてくれた人のことを忘れない。
最後の日は、そいつの家に泊めてもらった。盛り場からそいつの家まで、ふたりでてくてくと歩いた。その間、なにかしゃべった記憶がない。そいつの家に着くと、布団のある場所を教えてくれたり、明朝の予定を確認してくれたりはしけど、それ以外は何も聞かなかった。
そいつはずっと無表情だった。笑いもしなければ怒りもしない。表情のない表情をしていた、と言ったほうが正確かもしれない。
翌朝、トーストとコーヒーの簡単な朝食を済ますと、そいつは出勤時間を少し早めて、空港へ向かうバスの乗り場まで付き合ってくれた。
バスが発車するとき、そいつは表情のない表情のまんま、右の手のひらをこちらへ向けるようにして、軽く手を上げた。
そいつのその姿を、ずっとずっと忘れない。
tags: myself
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