2006/01/23

姿を消す、というデザイン

 昨日、中部国際空港セントレアから飛行機に乗って旭川に帰ってきました。この空港を利用したのは昨日が初めてだったのですが、近年完成したほかの空港と比べて建設コストが非常に安かったことで有名なこの空港の建物について感じたことを書いてみます。

 まず第一に感じたのは、他の空港の建物が外観で様々な主張をしているのに対して、このセントレアはそれをまったくやめてしまっていることです。
 外壁は主に白いタイル張りのPC版とガラスのカーテンウォールによって構成されていますが、必要最低限のボリュームを必要最低限の材料で覆っているにすぎず、自然採光が必要な部分にはガラス、それ以外の部分にはPC版、と使い分けられているだけのように見えます。
 それ以上の、外観を見た人に対して何らかの主張をするための要素は一切省かれています。
 
 それを見た人に対してまったく印象を残さないということはすなわち、その姿を消してしまったことに等しいのです。
 考えてみれば、この空港のためだけに造成された海上の島に立地していることによって、そこへアプローチする人々の目的はこの空港を利用することに限られているのですから、シンボリックで印象的な外観を示す必要はまったくなく、ここへアプローチしてくる人を誘導するためのサインを分かりやすくするために、どうしても巨大になってしまう外観は背景として目立たない方が都合が良いのです。

 それとは逆に、建物の中へ入るとその内観は、利用客の対して十分で豊かなアメニティを与えるものになっています。必要のないものをどんどん削ぎ落としていった設計者は、利用客に豊かなアメニティを与える機能は必要なものであると判断したようです。

 国内線・国際線ともに、出発は3階、到着は2階という構成はシンプルかつ明快で、素晴らしく合理的です。
 ただ、それを実現するためには3階の出発ゲートから2階レベルにある飛行機本体の出入り口をつなぐための長いスロープが必要になり、当然ながらそれは出発ゲートの数だけ要ることになり、それだけ見るととても非合理的なのですが、それ以外の機能の配置がとんでもなく合理的にできることによって十分におつりがきます。
 2階に到着した乗客は、そのフロアから上下することなく国際線から国内線への乗換えや国内の電車バスへの乗換えを行うことができます。
 また出発客は1階・2階の存在をまったく意識することなく、まず3階のチェックインカウンターを目指してアプローチすればよく、また大屋根で4階の飲食・物販フロアを3階と同一空間として構成することによって、空港で長い時間を過ごすことになる出発客に対して、チェックイン中に4階の賑わいを感じさせることができ、スムーズにそちらへ誘導することに成功しています。

 その飲食・物販フロアは、そのへんのフードテーマパークをしのぐくらいの集客力を持つ店舗郡で構成されています。最近レシピ本が世界的な評価を受けたことでも有名なカリスマ主婦、栗原はるみさんがプロデュースしたというカフェ「YUTORI NO KUKAN」で昼食をとったのですが、当たり前の食事が当たり前に提供され、値段設定もちょうど良くてとても満足できました。ところで、ああいうところで飲む生ビールは、どうしてあんなに美味しいんでしょうか。

 飲食・物販フロアのある4階には巨大な展望デッキもあります。ここからは離陸を待つ飛行機たちがつながれたゲートをすべてみることができ、巨大な飛行機が発着を繰り返す滑走路はもちろんのこと、いくつものタンカーが行き来する広い海も含めた非日常的な風景を眺めることができます。
 冷たい風に吹かれながらも、何百人もの人々がこの風景を満足げに眺めていました。

 いうまでもなく、この展望デッキから見えるこの空港の建物は、決して風景の邪魔をすることなく、自然の曲線をを引き立てるグリッドとして、見事に姿を消していました。

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